「支える側」だった自分が、支えられる側になったとき
- dyamamoto29
- 6月6日
- 読了時間: 3分
3ヶ月にわたるインド研修のちょうど折り返し地点。チームのリーダーを務めていた彼は、1日の振り返りセッションでほとんど言葉を発せず、じっとノートを見つめていた。
いつもはメンバーをまとめ、率先して意見を出し、空気をつくってきた彼。その静けさに、チームの誰もが少し違和感を覚えていた。
■ 「リーダーであろうとする自分」が崩れた日
彼は研修が始まって以来、ずっと“リーダーとしての責任”を全うしてきた。初めての異文化環境、慣れない英語、価値観の違う現地パートナーとのやりとり。そうした中でも、「自分が引っ張らないと」「周りに迷惑をかけてはいけない」と、時には無理をしながらも、表情には出さずに進めていた。
しかし1ヶ月が過ぎたある日、突然ふっと心の糸が切れたようになった。言葉が出ない。判断がつかない。話しかけられても、反応が遅れる。「自分でも、自分じゃないみたいでした」と後に彼は語ってくれた。
■ 心が折れそうになる自分に気づいた瞬間
日々のリーダー業務に加え、現地の人々との調整やチーム内の温度差の調整。それらすべてを「しっかりこなそう」と背負い続けた結果、彼の心は少しずつ摩耗していった。
周囲には気づかれないようにしていたけれど、内側では常に「不安」と「プレッシャー」が付きまとっていたという。
その積み重ねが、ある日「もう無理かもしれない」という感覚に変わった。頭ではやるべきことが分かっているのに、体が動かない。何もしていないのに、涙が出てきそうになる。
「今まで自分は、こんな状態になったことがなかった」と。
■ 支える立場から、支えられる立場へ
彼の変化に気づいたのは、他でもないチームメンバーだった。
「大丈夫ですか?」と、普段あまり自分から発言しないメンバーが声をかけた。
「リーダーの代わりに、今日の進行やりますよ」と、別のメンバーが申し出た。
最初はそれさえも“申し訳なさ”で受け取れなかった彼。でも、「あ、自分は今、“支える側”じゃなくてもいいんだ」と思えたとき、少しだけ気持ちがほどけたという。
■ 弱さを見せることで、チームの関係が深まった
彼はしばらくの間、自分の状態を正直に言葉にできなかった。けれど数日後、「今の自分は調子がよくない。だから少し頼らせてほしい」と、ミーティングの冒頭でチームに伝えた。
その言葉がきっかけとなり、チームの空気が変わった。それぞれが少しずつ、本音を語るようになり、遠慮や緊張が薄れていった。
「弱さを見せることが、こんなにも信頼につながるとは思わなかった」と彼は後に振り返っている。
■ レジリエンスとは、「立ち直れる力」ではなく「折れても戻ってこれる力」
インドという慣れない環境の中で、リーダーとして「正しくあらねば」「強くあらねば」と思い続けた彼が、自分の“限界”に触れ、それを認め、受け入れていくプロセス。そこには、精神的な強さだけでなく、人としての柔らかさや、関係性の変化があった。
■ 自分の弱さに気づけたとき、人は本当に変わり始める
最後に彼はこう語ってくれた。
「自分が壊れそうになったことで、逆にチームの力を信じることができた。ずっと“引っ張るリーダー”でいようとしたけれど、“委ねるリーダー”という在り方もあるんだと知りました」
強さとは、背負い続けることだけではない。ときに立ち止まり、委ね、再び歩き出す。それを受け入れることで、人は本当の意味でしなやかに変わっていくのかもしれません。
Comments